長野県軽井沢町。私たちはこの町で活動しているボランティア団体です。2009年12月現在、会員数116名、
2000年2月に発足した会です。軽井沢町は観光地で、毎年約800万人が訪れます。

1.軽井沢サクラソウ会議の誕生
 1999年春、軽井沢町の町花サクラソウが山から1,000株ほど盗掘されたことがありました。このままでは
自生サクラソウが無くなってしまうという危機感から、「サクラソウが咲き続ける町に!」という合言葉で、
「軽井沢サクラソウ会議」が生まれました。
 初めて町内のサクラソウの分布調査が行なわれ、幸いにも複数のサクラソウ自生地が残っていること
が判明しました。また、東京大学院 鷲谷いづみ教授の調査によって、町のある浅間山麓地域は、日本
三大サクラソウの自生地一つであるということが、明らかになりました。(他は北海道日高地方と、九州阿
蘇高原の二ヶ所。)

2.サクラソウの健全な育成のために、幅広い生態系の保全を!
 鷲谷いづみ教授の長年の研究で、サクラソウの健全な育成のためには、
 (一)サクラソウの受粉を媒介するトラマルハナバチの女王蜂、
 (二)この蜂に年間を通して食料である花粉や蜜を供給できるように野山の花が連続して咲くこと、
 (三)女王蜂の越冬のために古巣を提供する野ネズミがいること、
などなど、幅広い生態系が保全されていることが大切であることがわかりました。私たちはサクラソウを
シンボルとして、軽井沢町に残っている自然生態系を保全するために、生物多様性を高めるために、活
動を始めました。
 かつての里山の手入れに準じてサクラソウの自生地の下草刈りをすると、サクラソウが毎年増えます。
サクラソウ会議では「チョッピリ勉強会」を開催し、幅広く自然環境・環境教育のことを知ったり、「無理せ
ず、楽しく」活動してきました。WWFや、日本自然保護協会から補助金を頂き、これまでに三種類のパ
ンフレット、一冊の本「もう一度見たい!軽井沢の草原・湿原」を創りました。紙芝居「サクラソウとトラマ
ルハナバチ」も作り、小学校へ出向き、子供たちに見てもらったりしています。子供たちと学校の敷地内
にサクラソウや他の野草を植えてもらったりしています。

3.本州でも有数の自然環境、その破壊
 軽井沢は海抜約940mにあって、特に夏涼しいという特徴があります。また、太平洋地域と日本海地域
の境界にあるので、植物種が豊富で、1,000種類以上の植物があります。特に町の南地域の草原と湿原
は、かつては尾瀬ヶ原よりも多数の植物がありました。本州の他の地域ではめったに見られない種類の
植物が隔離分布していて、氷河気候の遺存種ではないかと考えられています。
 この草原・湿原は長い間、農業生産を支える牛馬のための「入会地」として利用されてきました。その
ため適度に人間の手が入り、毎年春先には野焼きされていたので森林化することもなく、草原・湿原の
まま管理されていました。木の本数が多いからではなく、「植物の種類が多い」=生物多様性が高い、
という意味で本当に自然が豊かだったのです。入会地としての共同管理が期せずして自然環境を最も
良く保存する結果になっていたのです。
 現在でも、日本に100個体しか確認されていなかったハナヒョウタンボクという木が見つかったり、また
本州では1,2ヶ所だけといわれているオーストラリアと日本の間を渡るオオジシギという鳥が営巣したり
しています。100種類以上の蝶が生息していたりします。
 ですから軽井沢町は、日本の自然環境から見ても、大変貴重な土地だということが「軽井沢サクラソ
ウ会議」の活動の中で分かってきました。ところが残念なことに、貴重な自然環境があったにも関わら
ず、専門家の研究も進んでいたにも関わらず、どういうわけか一般の町の人たちには自分の町の自然
の価値が伝わっていなかったのです。農業生産の仕方が変化し、入会地の必要がなくなると、南地区
の湿原をゴルフ場や別荘地にしようという買収に応じてしまい、貴重な草原や湿地の自然が開発され
尽くしてしまったのです。更に人間の生産活動と切り離されて手入れされなくなった草原や里山は、生
物多様性が低くなってしまっています。

4.軽井沢町の自然を取り巻く危機
 現在、バブル期には高値になり過ぎて開発されずに済んでいた土地が、長野新幹線開通で町が東
京から1時間10分の時間距離なってしまったために、再びミニバブルの状態にあります。
 毎日林が切り払われ開発が進んでいます。別荘を除く住民8,000戸あまりの町に、毎年600〜900軒
のスピードで家(別荘も含む)が建っています。そのために雑木林が丸裸にされ、表土が削られたり、
盛り土され、残っていた自然環境が急速に失われています。このままでは数年の後には軽井沢は、
「東京の郊外住宅地」になってしまいそうです。

5.日本の自然環境を守るために
 最近、町に残された湿地2万坪の開発計画がわかり、この土地を守るために軽井沢サクラソウ会議
は他の団体にも呼び掛けて、「軽井沢の緑を守る基金」(仮称)を創り、この土地の買取りを計画して
います。買取りという行為は大きな労力を必要とすることです。しかし沢山の人が自分たちの金銭的
負担をもって自然を保全しようとすることで、「自然はみんなのもの」という意識を人々に植え付けるこ
とができる大きな可能性があります。
 私たちは一株のサクラソウを大切に思って活動を始め、関連した知識を得ることで、自分たちの町の
自然の価値がわかってきました。そして自然を「みんなのもの(公共財)」にしたい、と強く思うようにな
りました。国、県、市町村レベルで一刻も早く自然環境を無秩序な開発から守り、保全することのでき
るような法整備・施策が望まれます。子供たちに、残すべき自然環境が残っているうちに!
 「自然はみんなのもの」